「生活防衛資金は、生活費の3〜6ヶ月分」
お金の話を少し調べると、必ずこの文に行き当たります。銀行のコラムにも、証券会社の入門ページにも、家計の本にも、ほとんど同じ表現で。
あまりに一致しているので疑う気も起きなかったのですが、あるとき引っかかりました。この「3」は、誰が決めた数字なんだろう。
調べてみたら、思っていたより長い話になりました。
出典を探しても、出てこない
探し方が悪いのかと思って、しばらく探しました。結果から書くと、見つかりませんでした。
「生活費の3〜6ヶ月分」と最初に言った人も、根拠となる公的な基準も出てきません。書いている側も出典を示していないことがほとんどで、「一般的に」「といわれています」という書き方で始まります。誰かが決めて広まったというより、いつの間にか共有されていた、という性質の数字のようでした。
ここで「じゃあ適当な数字なのか」と結論を出しそうになったのですが、そうでもありませんでした。
無根拠ではなく、何かを測った跡だった
会社員が仕事を失ったとき、翌月から失業給付が入ってくるわけではありません。収入が止まってから、給付が始まるまでに空白があります。
自己都合で退職した場合、まず7日間の待期期間があり、そのあとに給付制限期間が続きます。この間は雇用保険からの入金がないので、手元の現金で暮らすことになります。
つまり「3ヶ月分」は、天から降ってきた目安ではなく、この空白をおおよそカバーできる長さとして置かれた数字だった、と考えると筋が通ります。生活費の何ヶ月分か、という数え方をしている理由も同じです。守りたいのは残高そのものではなく、収入がない状態で暮らせる時間だからです。
ところが、その空白は2025年に短くなった
ここからが、調べていていちばん意外だった部分です。
2025年4月1日から、自己都合退職の給付制限期間は原則2ヶ月から1ヶ月に短縮されました。待期の7日と合わせても、およそ1ヶ月半です。改正前と比べると、埋めるべき空白はひと月分ほど縮んだことになります。
条件によって変わる部分もあります。
- 5年以内に3回以上、自己都合で離職している場合は3ヶ月のまま
- 厚生労働省が定める教育訓練を受けた場合、給付制限が解除されることがある
- 倒産や解雇などの会社都合であれば、そもそも給付制限はなく、待期7日のみ
なお、給付制限が明けた日にまとめて振り込まれるわけではなく、認定日を経て支給されます。制度上の空白と、口座にお金が入るまでの体感の空白は、少しずれます。
目安は「答え」ではなく、誰かが測った結果だった
これが、調べていて分かったことでした。
**「3ヶ月分」は正解として存在していたのではなく、ある時点の制度を測った結果の数字だった。**測った対象が変われば、測り直した数字も変わるはずです。それなのに、実際に流通し続けるのは目安のほうだけで、何を測ったのかは一緒に運ばれません。
だから、制度が変わっても目安は同じ顔で残ります。今も多くのページに「3〜6ヶ月分」と書かれていて、それ自体は間違いではないのですが、なぜその長さなのかを知らないまま使うと、自分に当てはまらないときに気づけません。
雇用保険に入っていないフリーランスや自営業の人にとって、この空白は「1ヶ月半」でも「3ヶ月」でもありません。共働きで 二人分の収入があるなら、片方が止まっても全額が止まるわけではない。住居費が生活費の半分を占めているかどうかでも、しのげる長さは変わります。
3ヶ月と言われているから3ヶ月、をやめる
調べる前と後で、この数字への向き合い方が変わりました。
前は「3ヶ月分が正解らしいので、そこを目指す」でした。今は「自分の場合、収入が止まってから次に何か入ってくるまで何ヶ月あるのか」を先に考えて、その長さを埋める、という順番になっています。答えとして受け取るか、測り方として受け取るかの違いです。
結果として同じ3ヶ月になることもあります。それでも、同じ数字を根拠つきで持っているほうが、いざ大きな支出を前にしたときに動かしやすいというのが、調べてみての実感でした。
生活防衛資金そのものの考え方は生活防衛資金は、そもそも何のためのお金かに、毎月の積み上げ方は「毎月いくら貯金すればいい?」に数字で答えるにまとめています。