まとまった現金ができたとき、「住宅ローンを繰り上げ返済すべきか、それとも投資に回すべきか」という問いはよく出てきます。この比較は、たいてい「ローン金利と期待利回りのどちらが高いか」という話になります。ただ、その前に確認しておきたいことがあります。
どちらを選んでも、手元の現金は同じだけ減る
前提を次のように置いて試算してみます。
- 現在の現金: 300万円
- 手取り月収: 35万円 / 生活費: 月23万円 / NISA積立: 月3万円
- 生活防衛資金ライン(3ヶ月分): 69万円
- まとまった資金: 200万円
この200万円を繰り上げ返済に使った場合と、一括で投資に回した場合を比べると、どちらも直後の最低残高は109万円で、まったく同じ結果になりました。当然といえば当然で、どちらも「手元の現金が200万円減る」という点では同一だからです。
違いが出るのはその後です。繰り上げ返済によって毎月の返済額が1.2万円下がったとすると、毎月の収支は9万円から10.2万円に改善し、12ヶ月後の残高は投資に回した場合の208万円に対して222万円になります。一方で投資の場合は、減った現金が値動きのある資産に変わり、必要になれば売却して戻せる、という性質の違いが残ります。
金利と利回りの比較より先に、割り込まないかを見る
同じ条件で、手元の現金が300万円ではなく250万円だった場合を試算すると、様子が変わります。200万円を投じた直後の最低残高は59万円まで下がり、生活防衛資金ライン69万円を10万円下回りました。
このとき、繰り上げ返済と投資のどちらが有利かという議論には、あまり意味がありません。どちらを選んでも防衛ラインを割り込むからです。同じ条件で投じる金額を150万円に抑えると、最低残高は109万円となり、ラインを40万円上回って収まります。
「いくら投じるか」が先、「どちらに投じるか」は後
繰り上げ返済と投資の比較は、金利や利回りという分かりやすい軸があるため、そちらから考え始めたくなります。ただ、キャッシュフローの観点で見れば、どちらも「戻しにくい形に現金を移す」という同じ性質の行動です。繰り上げ返済した分は基本的に手元には戻せませんし、投資に回した分も、相場が下がっている局面では取り崩したくないお金になります。
まず「防衛ラインを割らずに投じられる上限はいくらか」を決め、そのうえで「その金額を返済と投資のどちらに向けるか」を考える。この順番にすると、どちらを選んでも生活が不安定にならない範囲に収まります。現金と投資の優先順位そのものについては、NISAの積立額と生活防衛資金、どちらを優先すべきかでも整理しています。