親から「少しまとまったお金が要る」と言われる場面は、ある日突然やってきます。金額が具体的に示されることもあれば、はっきりしないまま相談だけされることもあります。
このとき困るのは、断りたいかどうかではなく、そもそも自分に出せるのかが分からないことだと思います。感情的には出したい。でも出したあとの生活がどうなるかが見えないので、返事ができない。
金額を入れて計算すると、少なくとも「出せるかどうか」の部分は答えが出ます。
前提
38歳、手取り32万円、ボーナスなしとします。
- 手取り:月32万円
- 固定費:月14万5千円
- 変動費:月9万5千円
- つみたてNISA:月3万円
- 現在の預貯金:150万円
- 下回りたくない下限:生活費3ヶ月分の72万円
生活費は月24万円。毎月5万円ずつ現金が増えていく状態です。
この前提での「自由に使えるお金」は83万円でした。150万円の預貯金があっても、そのまま83万円になるわけではありません。下限の72万円を確保したうえで、この先1年いちばん残高が薄くなる時点でも割り込まない、という条件での金額です。
一括で30万円を渡す場合
来月に30万円を渡すとして計算すると、自由に使えるお金は83万円から58万円になりました。
減ったのは25万円です。30万円出したのに25万円しか減らないのは、その月にも5万円の手残りがあるためで、残高は150万円から130万円に落ちます。
結論としては、出せます。 出したあとも下限の72万円は割らず、さらに58万円の余地が残る。この58万円という数字が出ていれば、渡したあとで「大丈夫だっただろうか」と考え続ける必要がなくなります。
出せないと分かる場合もあります。そのときは、金額を下げるのか、時期をずらすのか、別の方法を一緒に考えるのかという話になります。どちらにしても、話し合うべき論点が「気持ち」から「金額と時期」に移るのが、計算しておくことの効用です。
毎月3万円を渡す場合
一方、「毎月少しずつ」という形になることもあります。月3万円で計算してみました。
自由に使えるお金は83万円から71万円。減ったのは12万円です。一括30万円のときの25万円と比べると、半分以下に見えます。
1年続ければ総額36万円で、一括の30万円より多く出ていくのに、なぜ減り方は小さく見えるのか。毎月の手残り5万円のうち3万円が充てられる形になり、それでも月2万円ずつは増え続けるからです。谷が深くならないので、自由に使えるお金の数字上は軽く見えます。
ただし、下限そのものが上がる
ここに、見落としやすい変化があります。
毎月3万円を継続的に負担すると、月々の支出が24万円から27万円になります。すると、生活費3ヶ月分として計算していた下限も、72万円から81万円に上がります。
つまり毎月渡す形は、出ていくお金が増えるだけでなく、あらかじめ確保しておかなければいけない金額まで押し上げるということです。9万円ぶん、身動きの取れる範囲が狭くなります。
一括のほうは、払い終われば元の家計に戻ります。毎月のほうは、続けているあいだずっと下限が高い状態が続き、しかもやめるという判断が難しい。数字の上では軽く見えるほうが、実際には元に戻しにくい形をしています。
どちらが良いという話ではない
一括と毎月では、効き方の質が違います。
- 一括:一度大きく凹むが、時間とともに戻る。金額と時期が最初から確定している。
- 毎月:凹みは浅いが、続くかぎり下限が高いままになる。終わりが決まっていないことが多い。
親の側の事情によって、どちらが必要かは変わります。ここで言えるのは、「毎月3万円くらいなら」と感じたときの「くらい」が、一括30万円より軽いとは限らないということだけです。
返事ができない状態を短くする
この話がしんどいのは、判断材料がないまま返事を求められることです。出したい気持ちと、出して大丈夫か分からない不安が同時にあって、どちらの方向にも動けない。
金額を入れて計算するのに必要な時間は数分です。それで「出せる」と分かることもあれば、「この金額なら出せる」と範囲が見えることもあります。どちらであっても、返事ができない状態が続くよりは、相手にとっても自分にとっても扱いやすい状況になります。